業務中・通勤中に生じた事故は「労働災害」として認定を受け、治療や休業損害に必要な保険金を請求できます。実際に認定を受けるにあたっては、手続きの煩雑さや、労災扱いを避けたがる事業主の態度に阻まれがちだと言わざるを得ません。
ことハラスメントや長時間労働による精神障害・過労死においては、業務中の状況が起因となったことを法的に証明しきれず、労働者として納得できない結果に至りがちです。

万一にも職場で傷病を負ったときは、下記の労災認定に関する基礎知識やトラブル例を押さえて手続きを進めることが大切です。

業務災害のケース 労働災害の類型

労働災害には、業務中に生じるもの(業務災害)・通勤中に生じるもの(通勤災害)の2種類があります。
業務災害は身体だけでなく心の疾病も含まれ、なかには「過労死」という最悪の結果にいたるケースがあることも否めません。

業務中の事故

業務災害の代表的なものが、建設業・製造業・運送業などの職種で起きやすい次の事故です。厚生労働省の統計によると、死亡災害は減少傾向にあるものの、休業4日以上を要する災害は増加傾向にあります。

【業務災害例】業務中の事故
  • ・転倒
  • ・墜落・転落
  • ・動作の反動
  • ・無理な動作
  • ・はさまれ・巻き込まれ
  • ・切れ・こすれ
  • ・熱中症

過労死

労災申請における過労死は、脳血管疾患・心臓疾患あるいは先述の精神障害によるものと認識されています。平成30年の統計で39人の死者が確認されていますが、遺族による労災申請がなされないままの潜在的な犠牲者が多く存在するものと考えられます。

【業務災害例】過労死
  • 脳血管疾患(脳内出血・くも膜下出血)
  • 虚血性心疾患当(心筋梗塞・狭心症・解離性大動脈瘤)
  • 精神疾患による自殺

通勤中の事故

通勤災害とは、通勤中あるいは業務中の移動において発生した交通事故を指します。
平成30年の統計における通勤災害は、死亡災害の19%・休業4日以上必要となった災害の6%と、割合は決して無視できません。
なお問題なのは「交通事故に労災保険は使えない」と誤解しているケースです。労使ともに保険申請の必要性を認識しないままでいる場合も多く、専門家によるフォローは欠かせません。
なお、通勤中の事故は、会社の安全配慮義務違反には、原則としてなりませんから、会社にその旨を伝えて、協力を促しましょう。

対応方法 労災に遭ったとき・社内で発生した時の対応方法

労災が発生したときの対応方法は労使で異なります。
労働者が非正規雇用(パート・アルバイト・派遣社員等)であったとしても労災保険の支給対象となり、正規社員と平等に対応しなければなりません。

【労働者側の対応方法】
Step1.「労災保険指定医療機関」を受診する
一般の医療機関では自由診療扱い(窓口負担額10割)となり、労災保険の給付まで立替金が発生してしまいます。労災保険指定医療機関であれば、受診当初から負担額ゼロで治療を受けられます。
やむを得ず指定外の一般の医療機関を受診する際は、健康保険を適用(窓口負担額3割)し、後日労災保険から立替金の清算を受けるのがベストです。
Step2.「療養補償給付たる療養の給付請求書」の作成・提出
労災保険から治療費を拠出してもらうための申請書類を作成し、受診先の医療機関に提出します。自身で作成することが難しい場合は、会社に支援を要請するのが望ましい方法です。
【使用者側の対応方法】
Step1.救護・最寄りの指定医療機関の紹介
労災と思われる事故が発生した場合は、最優先で労働者を救護し、最寄りの労災保険指定医療機関に案内すべきです。事故・災害リスクのある職場では、医療機関リストを作成し常備しておくのが良い方法です。
Step2.労働基準監督署への報告
傷病の程度に関わらず、労災が発生したときは「労働者死傷病報告」を提出するよう義務付けられています。原則として4半期ごとに1度とりまとめて報告するものの、休業4日以上必要となる重篤な傷病を負ったケースについては随時遅滞なく報告しなければなりません。 本報告を怠った場合・虚偽の届出をした場合には、50万円以下の罰金(安全衛生法第120条)のほか、司法処分に加えて「労働基準関係法令違反による公表事案」で社名公開が行われます。

労災保険について 労災の給付内容

労災保険は複数の保険が一帯となって構成されており、治療費・休業損害・後遺障害あるいは死亡による損害の全てをカバーしています。

【参考】労災保険の補償内容
治療が必要となった場合
  • 療養補償給付(療養給付)
  • 休業補償給付(休業給付)
後遺障害が生じた場合
  • 傷病年金(傷病補償年金)
  • 障害補償給付(障害給付)
  • 介護給付(介護補償給付)
死亡した場合
  • 遺族補償一時金(遺族給付)
  • 遺族補償年金(遺族年金)
  • 葬祭料
  • 葬祭給付
その他
  • 二次健康診断等給付
  • 各種特別支給金

療養補償給付(療養給付)

療養補償給付(通勤災害の場合は“療養給付”)は、治療費の全額補償を行うことで無料での医療機関受診を可能とするものです。交通事故など第三者が受傷の原因となった事故では、加害者から支払われる損害賠償金で調整が行われ、労働者にも治療時に一部負担金が生じる場合があります。


休業補償給付(休業給付)

休業補償給付(通勤災害の場合は“休業給付”)とは、休業により損なわれた収入の一部を補うものです。
申請により、労災による休業1日目から給付基礎日額の60%相当が支払われ、休業4日目からは給付基礎日額の20%の「休業特別支給金」が給付額に上乗せされます。

給付基礎日額とは

事故が発生した日(もしくはその直前の賃金締切日)の直前3か月間に労働者に対して支払われた給与・賞与・手当等の総額に基づいて計算された、1日あたりの平均賃金です。


障害補償給付(障害給付)

障害補償給付(通勤災害の場合は“障害給付”)とは、治療の甲斐無く残存した症状(後遺障害)について、一律で「障害特別支給金」・さらに第7級以上の重度のものであれば「障害特別年金」を支給するものです(下記表)。

障害等級 障害特別支給金 障害特別年金
(算定基礎日額※)
障害等級 障害特別支給金
(算定基礎日額※)
障害特別年金
第1級 342万円 313日分 第8級 65万円 -
第2級 320万円 277日分 第9級 50万円 -
第3級 300万円 245日分 第10級 39万円 -
第4級 264万円 213日分 第1級 29万円 -
第5級 225万円 184日分 第12級 20万円 -
第6級 192万円 156日分 第13級 14万円 -

※算定基礎日額=事故発生前1年間の給与総額÷365日

給付は「等級認定」が必須

障害補償給付(障害給付)の給付を受けるには、医師の診断書に基づく審査の上で「後遺障害等級認定」を得なければなりません。
適切な等級認定を受けるには、症状固定(医学的に有効とされている治療を継続しても症状が改善しない段階)まで入通院を継続し、労災が発生した当初からの経過を医療記録として残す必要があります。
等級認定されうる症状のなかには、客観的に判断しづらいもの(視力の低下やむち打ち症による不調など)も多く、医師に主観的症状を伝える工夫も必要です。
原則として、書面審査のため、後遺障害認定が妥当であることを主張立証する必要があり、あい湖法律事務所大阪高槻オフィスの弁護士であれば、専門性を備えておりますので、適切な後遺障害等級認定を受けることが出来ます。
後遺障害の可能性のある事故・災害に見舞われたときは、治療経過に寄り添って客観的に受診アドバイスを行える法律の専門家のフォロ―を受けると安心です。


介護給付(介護補償給付)

特に重篤な第2級以上の後遺障害が残存した場合は、労災保険から介護費用が給付されます。
給付額は介護の状況に応じて変化し、以下のように定められています(金額は令和2年4月1日以降)。

【介護給付(介護補償給付)から支給される額】
  • 職業人による常時介護の場合:166,950円
  • 親族・友人・知人等による常時介護の場合:72,990円
    (介護のための支出額が上記を上回っている場合は166,950円)
  • 職業人による随時介護の場合:35,400円
  • 親族・友人・知人等による随時介護の場合:35,400円
    (介護のための支出額が上記を上回っている場合は83,480円)

遺族給付(遺族補償給付)

労働者が事故・災害により死亡した場合、遺族は「特別支給金」として一律300万円給付されます。なお、特別支給金の給付を受けられるのは、次の受給権者のうち最も順位の高い人物です。

一時金扱いである特別支給金のほかにも「遺族年金」が支払われます。
遺族年金は年齢・血縁関係等により受給資格が定められており、受給資格者がいない場合は「特別一時金」として給与基礎日額の1000日分の給付がなされます。

【優先順位順】遺族給付の受給権者
  • 配偶者
  • 労働者の死亡当時、その収入で生計維持していた子・父母・孫・祖父母
  • その他の子・父母・孫・祖父母
  • 兄弟姉妹
【表】遺族年金の給付条件
受給資格者の人数 遺族年金の給付額 受給資格
1人 153日分
(55歳以上の妻または
一定の障害状態にある妻の場合は175日分)
  • 夫(※55歳以上か一定障害あり)
  • 子・孫(※18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間か、一定障害あり)
  • 父母・祖父母・兄弟姉妹(※55歳以上60歳未満)
2人 201日分
3人 223日分
4人 245日分

葬祭料(葬祭給付)

死亡した労働者の葬儀費用として、さらに葬祭料(葬祭給付)が行われます。
給付額は「315,000円+給付基礎日額30日分」と「給付基礎日額60日分」のうち多い方が支給されます。
葬祭料の受給資格は厳密に定まっていません。立場上葬儀の手続きを行うことになる遺族に給付されます。


請求時効に注意

労災保険には2年もしくは5年の請求時効が定められています(労働者災害補償保険法第42条)。労使間で認定をめぐってトラブルに発展するか、当初労災との認識がなく保険請求が遅れてしまった場合には要注意です。

【労災保険の請求時効(労働者災害補償保険法第42条)】
・労災発生(もしくは死亡日)から2年
療養(補償)給付・休業(補償)給付・介護(補償)給付・葬祭給付
・労災発生(もしくは死亡日)から5年
障害(補償)給付・遺族(補償)給付・障害給付

業務災害・通勤災害 労災認定の基準

労災認定を受けるには、所定の認定基準を満たす必要があります。
上記の基準は業務災害と通勤災害のそれぞれで定められており、業務災害のなかでも過労死については、医師の診断内容が特に重要です。

業務災害

業務災害においては、発生した傷病が「業務起因性」または「業務遂行性」のいずれかの要件を満たし、業務とのあいだに一定の因果関係にあると認められることが認定条件です。

【業務災害の労災認定要件】
・業務起因性
傷病が業務によって引き起こされたと判断される要素です。
業務そのものの性質・労働時間などの使用者側の要素から、労働者の性格・体質・習慣などの個人的素因を差し引いて、なお傷病と業務との強い関連性が認められる場合に労災認定がなされます。
・業務遂行性
傷病が事業主の支配下にある状態で生じたと判断される要素です。
業務時間外または作業場外で発生した傷病(休憩時間中や出張先など)であっても、事業主や指揮命令者の指示を受けて行動していた場合には、業務遂行性があるとして労災認定がなされます。

これら労災認定の基準を満たす上で扱いが難しいのは、過労死などの身体に予兆の現れにくい障害です。


過労死の認定基準

過労死は「直近の異常な出来事」「短時間の過重業務」「長時間の過重業務」のいずれかが引き起こすと考えられています。労災認定を受けるには、次の3要素と基礎疾患の状況を総合判断し、業務起因性があると結論付けられる必要があります。

【過労死の労災認定要件】
・異常な出来事
極度の緊張・興奮・恐怖・驚愕等を引き起こす、突発的または予測困難な異常事態
例:仕事上の大きなミス・過大なノルマ・異動・転勤・顧客や上司とのトラブル
・過重労働
不規則もしくは深夜の勤務形態・拘束時間の長い業務・精神的緊張を伴う業務・出張の多い業務・生理的な不快感の強い作業環境など
・長時間労働
「発症前1ヵ月に概ね100時間」または「発症前2ヵ月または6ヵ月間にわたって1ヵ月あたり概ね80時間を超える時間外労働」(通称“過労死ライン”)

上記の客観的事実は厳密な認定要件ではなく、ケース毎に慎重な審査が行われます。


過労死認定を受けるための必要資料

過労死の労災認定では、死亡原因となった事実の裏付け資料が必須です。 死亡例には医療機関に通えないまま突発的に絶命に至ったものもあり、必ずしも医師の診断書を得られるとは限りません。認定に至るには、タイムカードや出勤簿・入退室記録・本人の日記や手帳など、様々な資料に基づいて多角的裏付けが欠かせません。

通勤災害

通勤災害では、就業との関連性のほかに「合理的経路および手段」が重視されます。原則として、次の区間を迂回または中断・逸脱なくに移動中に発生した事故のみが労災認定対象です。

本来は通勤災害として扱われない中断・逸脱中の事故でも「日用品の購入や介護」「選挙権の行使」「職業訓練学校への通学」等のやむを得ない理由であれば、労災認定がなされます。

【通勤災害の対象となる移動区間】
  • 住居 ― 就業場所間
  • 就業場所 ― 他の就業場所間
  • 単身赴任先住居 ― 帰省先住居

慰謝料請求 労災の損害賠償請求

何らかの損害が生じた場合、その原因となった立場に「慰謝料」(精神的苦痛に対する賠償)や「逸失利益」(後遺障害によって失われた将来の所得)を請求することが認められます。しかし現状の労災保険のシステムでは、上記2項目は全額カバーしきれません。
そこで、労災発生の原因が使用者側にある場合は、損害賠償請求で労災保険の不足分にあたる慰謝料・逸失利益の獲得が認められます。

損害賠償請求が認められ得るケース

損害賠償請求が認められるのは、使用者が安全配慮義務(労働基準法第5条)を怠り、適切な業務目標設定や快適な作業環境作りがなされなかったと客観的に判断されるケースです。

【判例1】ティー・エム・イーほか事件
(東京高裁平成27年2月26日判決)

うつ病を患って自殺した派遣労働者の遺族が、派遣元・派遣先に損害賠償請求を行ったケースです。
被告側は「病状を抽象的に問うだけでなく、通院先・診断内容・薬の処方などを詳細に把握して、必要であれば産業医の診察や指導等を受けさせるべきだった」と安全配慮義務違反が指摘され、その限度で慰謝料200万円の支払いが認められました。

【判例2】アンシス・ジャパン事件
(東京地裁平成27年3月27日判決)

“二人体制“で勤務する従業員らの関係が悪化し、一方が虚偽のパワハラ申立てを行ったことで退職に至ったケースです。使用者に対し退職した従業員から何度も現状説明があったにもかかわらず、他部署への配転などで従業員を業務上完全に分離するなどの具体的かつ適切な対応がなかったとして、安全配慮義務違反が認められました。本件では慰謝料50万円の支払いが認められています。

近年では安全配慮義務違反が認められる損害賠償請求例が増加しています。出来るだけ多くの証拠資料を揃え、経緯を整理してから請求に臨むことで、損害回復のための妥当な金額獲得に成功します。

困ったらご相談下さい こんなときは弁護士に相談を

労災申請の手続きは、当事務所に確認いただければ丁寧にお教えいたします。事業主にも協力してもらいましょう。労災は全賠償を補填してくれませんので、後遺障害が残りそうであれば、早期から弁護士に相談することでより良い解決となります。

事業主証明がもらえない(労災隠し)

トラブルが多いのは、事業主側が労災発生を隠そうとするケースです。
労災申請では「事業主証明」(事業の名称・所在地・氏名の申請書記入)が必要ですが、何かと理由をつけて拒否される場合が多々あります。これには、事業主に課せられる労災発生の報告義務を免れ、あわせて損害賠償義務を免れたいという狙いがあります。
事業主証明を拒否されても労働者単独で労災申請を行う方法がありますが、労働者は弱い立場に立たされます。労災申請を職場に阻まれるような本ケースでは、代理弁護士が速やかに交渉に入ることで、事業主の誠実な対応を引き出せます。報復目的の不当解雇や賃金未払いからも守られ、対等な立場で話し合えます。

後遺障害等級認定を得たい

一時金・年金の両方が認められ得る点を考慮すると、どのような残存症状でも積極的に後遺障害として認定を得る努力をすべきです。
等級認定を得るための受診方針は、弁護士の有する認定基準の具体的目安をベースに、的確なサポートが得られます。労災事案の受任経験豊富な弁護士・法律事務所であれば、相談中に心身の状態をチェックするための医学的知見の研鑽にも努めています。

損害賠償請求したい

安全配慮義務に欠けていた職場への損害賠償請求では、事業主の激しい抵抗は避けられません。
無償で利用できる紛争解決手段として「労基署による是正勧告」「労働委員会によるあっせん」があるものの、いずれも労働法に基づく状況改善を目指すものであり、事業主に個別の損害賠償義務を負わせることは困難です。

労災あるいは労働問題全般を扱う弁護士は、あくまでも「依頼人の有する法的権利」を守ることが職務です。労災申請とともに損害賠償請求の交渉を開始し、証拠収集(勤怠状況に関する資料・関係者証言など)について的確に対応を進めることで、事業主からの慰謝料支払いを確実にします。

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より早期から治療に専念していただける環境作りのため、ご依頼後は迅速な介入を心掛けています。
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企業側の立場での受任経験を活かし、事業主側の対応を先読みしながら法的対応を進めています。
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