残業代・休業手当・割増賃金を賃金不払いトラブルは、労働基準監督署に申告される事案の70%以上を占めます(参考リンク)。請求を行っても、使用者から「経営が厳しい」「就業規則通りの支払いを行っている」等の“言い訳”がなされ、話し合いが前進しないケースが後を絶ちません。
万一のトラブルに遭遇したときは、下記の賃金に関する基礎知識を押さえて対応を進めるとスムーズです。

労働基準法違反 未払い賃金に該当するもの

雇用契約や就業規則で定められた賃金を期日までに支払わないことは、そもそも労働基準法違反に該当します(労働法第11条・第24条)。
法律上“未払い賃金”に当てはまるものは、毎月支払われる固定給だけではありません。割増賃金や最低時給に満たない給与についても、使用者に対し法的に支払い義務の履行を求められます。

定期賃金

毎月期日を決めて支払われる給与には、労働基準法第24条2項において以下の5原則が定められています。本原則に反するものは“未払い賃金”に該当し、後述の遅延損害金等を上乗せして請求できます。

【賃金支払いの5原則】
通貨払いの原則 使用者が被雇用者に賃金を支払う手段は、通貨(日本政府発行の紙幣または硬貨)を原則とします。
直接払いの原則 使用者が被雇用者に賃金を支払うときは、直接労働者本人に支払わなければなりません。法定代理人(親権者)や弁護士以外の任意代理人への支払いはルール違反です。
全額払いの原則 賃金支払いは、当然ながらその全額を支払わなければならず、源泉徴収と社会保険料以外の控除は原則として認められません。「積立金」「罰金」等の名目で支払いの一部を留保または控除することはルール違反です。
毎月1回以上払いの原則 賃金支払いは、少なくとも毎月1回以上実施されなければなりません。「試用期間」「訓練期間」「休業からの段階的復帰に伴う試し出勤」等を名目に支払わないのはルール違反です。
一定期日払いの原則 賃金支払いは、“毎月〇日”とのように明確な期日を定めて定期的に実施されなければなりません。「何週目の何曜日」という決め方はルール違反です。

残業代・割増賃金

雇用契約書や就業規則で定められる勤務時間を超えた場合には、当然に残業代を受け取る権利が生じます。さらに法定労働時間(1日あたり8時間・1週間あたり40時間)を越えた場合には、次の割増賃金も上乗せされなければなりません。

そもそも、法定労働時間を超過して勤務させているにも関わらず「36協定」(時間外・休日労働に関する協定)を労働者と締結せず、労基署への届出も行っていない使用者は、処罰対象となります。

【一覧】賃金の割増率(労働基準法第37条)

時間外労働:25%
休日労働:35%
深夜労働:(午後10時から午前5時まで):25%


賞与・ボーナス

雇用契約や就業規則に明記のある賞与・ボーナスは、賃金としての性質を有します。
「業績悪化時は支給しない」等の特記事項に該当しない限り、記載通りに支払われなければなりません。
一方で、賞与等の臨時給に該当するものは、賃金支払いの5原則のうち「毎月1回以上の支払い」「一定期日払い」のルールは適用されません。請求の際は要注意です。


休業手当・休業補償

労働法では、休業時も平均賃金の60%以上を支払うよう義務付けられています。
昨今は、コロナで問題となったことは記憶に新しいと思います。支払い義務のある賃金については、その休業が使用者の責めに帰すべき事由によるものの場合「休業手当」(労働基準法第26条)、労働者の傷病を治療するために発生したものである場合は「休業補償」と呼称して区別を行います。
休業手当・休業補償ともに、最低限支払われるべき賃金額は同じです。

ただし、ここで指す「休業」は懲戒処分としての自宅待機と区別されている点に要注意です。
自宅待機は原則として無給であり、命令を発する際は就業規則の定めが根拠となります。そもそも自宅待機命令の相当性に納得できない場合は、未払い賃金ではなく待遇の問題として使用者と話し合う必要があります。

【参考】使用者の責めに帰すべき事由とは(一例)
  • 生産調整
  • 経営難
  • 原料・資材不足
  • 労働者のストライキ
  • 監督官庁の勧告による操業停止

最低賃金との差額

使用者には国の定める最低賃金以上の給与を支払う義務が課せられており、左記を下回る賃金規定も認められていません(最低賃金法第4条)。万一にも時給換算での給与が最低賃金を下回っている場合には、その差額を“未払い賃金“として請求可能です。 なお、最低賃金には「地域別最低賃金特定最低賃金※」の2種類があり、いずれか金額の大きい方が個別ケースでの最低限支払われるべき給与となります(同法6条)。

【参考】最低賃金を確認できるサイト

年次有給休暇

退職時に有給休暇の消化を申請したにもかかわらず給与に反映されていない場合は、未払い賃金として請求可能です。そもそも有給休暇の付与がなされていない場合は、明確な労働法違反となります。
ただし、付与された休暇日数を2年以上遡って全額請求することは、就業規則で繰り越し規定がない限り原則不可能です(労働基準法第115条)。今後、5年に変更される可能性が高いです。


退職金・解雇予告手当

就業規則に退職金規定が明示されているにもかかわらず支払われていない場合、未払い賃金として請求可能です。自主退職ではなく解雇されたケースでは、たとえ就業規則に規定されていないとしても、最大で平均賃金30日分の解雇予告手当(労働基準法第20条)を請求する権利が生じます。

減額の特例

例外的に最低賃金を下回る給与の支払いが認められるケースもありますが、使用者から「最低賃金減額特例許可」の申請がなされていることが条件です。減額率にも限度があり、20%以上減らすことは認められません。(最低賃金法施行規則第5条の表)
「試用期間だったから」「障碍者枠で雇用したから」等の理由で支払いを渋られた際は、適当な手続きが取られているか裏取りする必要があります。

【最低賃金の減額が認められる例】
  • 心身の障害(最低賃金法第7条1号)
  • 試用期間中(同条2号)
  • 職業訓練中(同条3号)
  • 業務内容が軽易(同条4号)
  • 断続的労働に従事(同条4号)

賃金不払いトラブルが多い業種

1企業あたり100万円以上の賃金が不払となっている例は毎年1,000件以上報告されており、なかでも次の業種に多い傾向があります。

賃金不払いには労災隠し等の別の労働問題が複雑に絡み合っているケースも多いのが現状です。労働者が独力で立ち向かうのは難しい問題だと評せます。

【賃金不払いトラブルが特に多い業種】
  • 運輸交通業(33.8%)
  • 製造業(27.4%)
  • 保健衛生業(11.6%)

参考:平成29年度「100万円以上の割増賃金の遡及支払状況」(“業種別の対象労働者数”より引用)

手配の流れ 未払い賃金の請求方法

不払いとなっている賃金を請求するには、入念な証拠収集・適切な請求手続きの2点を意識しなければなりません。具体的には、下記の順で手配を進めます。

賃金不払いの証拠収集

まずは賃金不払いを立証できるよう「労働時間を証明できるもの」と「雇用時に合意した賃金規定が分かるもの」を可能な限り揃えます。その上で法令を調べながら本来支払われるべき賃金総額を算出し、請求額を確定させます。

勤務先が勤怠管理を徹底していなかった等、次の資料を揃えるのが難しいケースでは、専門家が個別に証拠となるものを判断できます。

【参考】賃金不払いの証拠となるもの
・労働時間を証明できるもの
タイムカード・勤怠表・業務日誌の控え・給与明細書など
・雇用時に合意した賃金規定が分かるもの
雇用契約書・就業規則・その他勤務中に提出を求められた書面など

内容証明郵便の送付

未払い賃金の請求にあたっては、労働裁判や労基署申告などの強力な手段にすぐ訴えるのは得策ではありません。使用者の態度が固くなり、協議が長期化してしまう恐れがあるからです。
そこで、まずは「配達証明付き内容証明郵便」を作成し、請求する意志・請求額を伝えて協議開始の呼びかけを行いましょう。
左記郵送方法なら、先方への送達が法的に証明できます。したがって、後述の「賃金債権の時効」の完成を阻止し、回収に向けて時間のゆとりを作る効果を生じさせられます。


労働基準監督署・労働局への申告

内容証明郵便が送達されても請求に応じない場合は、管轄の労働基準監督署に違反内容として申告することで、調査が開始され支払いに至る可能性があります。
申告の際は最初に収集した証拠資料を提出し、さらに「労働法や条例の何に違反するのか」を明らかにしなければなりません。抱えているトラブルを法的表現に換言する必要性がある点を踏まえると、申告前に弁護士からアドバイスを受けるのが望ましいと言えます。
労働局は、具体的な企業との紛争を解決するお手伝いをしてくれます。


各種紛争解決手段を利用する

その他、下記の紛争解決手段を試みます。

支払督促
裁判所に賃金債権に関する資料を提出の上で申立てを行い、支払督促の送付を実施する方法です。使用者が督促を無視した場合、強制執行へと踏み切れます。
民事調停
依然として使用者との協議を望む場合は、裁判所で「調停委員」の仲裁のもと話し合う方法が適切です。ただし、調停が整わない可能性や、そもそも使用者が呼び出しに応じない可能性は否定できません。
個別労働紛争解決制度(助言・指導・あっせん)
労働局では、賃金不払いの是正を促す助言・指導や、使用者との話し合いの場を設ける「あっせん」を運用しています。あっせんに応じるかは使用者の意思に委ねられますが、処分回避のため応じる可能性は高いと言えます。
ただし、いずれの制度も労働者の利益の最大化を図ってくれるものではありません。後述する遅延損害金・遅延利息などは回収できない可能性が高く、そもそも賃金支払いの合意に至れないケースもあります。
労働審判・労働裁判
以上のどの手段でも解決できなかった場合は、地方裁判所に審判あるいは訴訟の申立てを行い、裁判官による審理を経て賃金債権の有無を確認します。
最も強制力の高い手段ですが、支払い実現まで数ヵ月~1年以上の時間を要することがあり、迅速な生活保障を望む労働者には適しません。

最も望ましいのは、証拠収集の段階から労働問題に長けた弁護士へと対応をバトンタッチすることです。誠実に対応する必要性を使用者に知らしめ、早期の合意と支払い実行が望めます。


【注意】賃金債権には時効がある

未払い賃金の請求権には消滅時効があり、本来の支払い期日から2年または5年と定められています。

退職後しばらく経ってから賃金不払い問題を認識して対処する際は、上記の消滅時効に注意をはらわなければなりません。時効完成までの間であれば、内容証明郵便の送付もしくは各種紛争解決手段の利用により、完成を阻止できます(時効中断)。

【賃金債権の消滅時効】
・消滅時効2年※
定期賃金・手当・賞与・災害補償請求権・年次有給休暇・解雇予告手当請求権など
・消滅時効5年
退職金(就業規則で定めがあるもの)

※2020年4月の民法改正の影響を受け、以降発生した賃金債権は消滅時効3年に変更されます。一定期間後にさらに延長が行われ、退職金債権と同様に5年となる予定です。
ただし有給休暇については、民法改正後も消滅時効2年に据え置かれます。

上乗せ請求 未払い賃金に生じる利息・遅延損害金の種類

給与は大切な生活の支えであり、いったん未払いが起きると額面以上の損失を労働者に課す結果となります。そこで、賃金不払いトラブルにおいては、下記の遅延利息・遅延損害金等も上乗せして請求することが認められています。

遅延損害金

遅延損害金とは「弁済期になっても履行されない債務」に発生するものです。退職金・退職手当を除く未払い賃金には、本来の支払日の翌日から年利3%(改正民法第404条2項※)が上乗せされます。

※2020年4月の民法改正までに発生した賃金については、年利5%の商事債権利率が適用されます。

遅延利息

本来の期日に賃金(退職金・退職手当除く)が支払われないまま退職した場合、賃確法第6条1項に基づき年利14.6%の「遅延利息」が退職の翌日から生じます。遅延損害金に比べて高利率となっているのは、退職によって債務不履行のまま交渉中断できる立場になった使用者に対し、早期に解決を図るよう促すのが目的です。
ただし、天災事変や事業の破産申立てなどの「やむを得ない事由」が使用者に生じている場合、本利息の上乗せは認められません。そこで、何をもって“やむを得ない”とするかが協議時の争点となります。


付加金

割増賃金・休業手当・休業補償・解雇予告手当については、労働裁判で請求が認められたときに倍額の支払いが命じられます(付加金/労働基準法第114条)。
付加金の請求にあたっては、賃金債権の消滅時効に関わらず「未払いが生じてから2年以内」に手続きしなければなりません。左記の点から、賃金不払いに対してはますます早期対応が必要だと評せます。

未払い賃金請求の例外 未払い賃金の請求が認められないケース

未払い賃金の請求は必ずしも認められるとは限りません。例外として、以下のようなものが挙げられます。

管理職の残業代

管理職の残業代請求においては「管理監督者性」が問われ、職責・業務内容などが経営者に近いほど認められ辛い傾向にあります。また、みなし残業代などの十分な手当てが給与に含まれていたと判断されるケースにおいても、残業代等の上乗せは出来ません。
相応の残業代や手当を請求するには、いわゆる「雇われ店長」としての立場であった事実等、経営には何ら関与せず特別待遇もない1人の従業員だったことを立証しなければなりません。

【管理監督者性とは】
  • 自己の労働時間について裁量権がある
  • 職務内容・権限・地位等の諸条件において、経営者と一体的な立場にある
  • その地位と責任にふさわしい賃金(諸手当含む)が与えられている

外回り営業や在宅勤務での残業代

事業場外労働(事業所とは別の場所で作業する働き方)については、労働時間を正確に評価しづらいのが難点です。毎日どの時間帯に働いており、どのように突発的な業務が生じていたのか、裏付け資料をより入念に揃えなければなりません。
また、緊急対応等のための「待機時間中」に実質的に労働に従事しており、その部分の賃金を求める際は、同じく就業マニュアルなどの実態を証明する資料がなければ、主張は認められません。
判例を参照し、弁護士とよく打ち合わせするべき部分です。

デメリット 賃金不払いの罰則

賃金不払いで使用者側に生じるデメリットは、遅延損害金等の加算による経済的損失だけではありません。下記のように、懲役刑も含む厳正な処罰がなされます。

使用者・事業主の処罰

定期賃金等の不払においては30万円または50万円以下の罰則があり、解雇予告手当など、労働者の不利益がより大きい種類の不払いについては、懲役刑を科せられます。
本罰則を受けるのは、労働者が勤務する支店の店長などの使用者にあたる人物だけではありません。労務管理を是正せず、ましてや違反行為を教唆した事業主も、当事者として処罰されます(労働基準法第121条2項)。

【賃金未払い問題で使用者側に課せられる罰則】
・30万円以下の罰金(労働基準法第120条)
定期賃金・休業手当
・50万円以下の罰金(最低賃金法第40条)
届出なく最低賃金を下回る給与を支払っていた場合
・6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法第119条)
解雇予告手当・休業補償・割増賃金

労働基準監督署による処分・社名公表

労働基準監督署へ申告を行うと、立ち入り調査(臨検)の上で文書指導や是正勧告・改善指導が行われるほか、重大かつ悪質な事案の場合は「送検」により刑事事件に発展します。送検された案件は厚生労働省が「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として広く公表し、社名や所在地が明らかにされてしまいます。
当然ながら、使用者にとっては信用の著しい低下という手痛い損失を被ることになります。労使ともに事案が重大化する前に対処を取るべきでしょう。

お悩みの方へ 弁護士に相談するメリット

支払われる賃金や手当は、働く人にとって大切な日々の生活の原資です。いたずらに問題を長期化すると、経済的損失の拡大が加速し、ますます身動きの取れない状態になってしまいます。
労働問題の知見を有する弁護士に任せれば、進まない話し合いや請求に対する気後れに悩まされる必要はありません。使用者側の誠実な態度を引き出し、その上で獲得できる金額の最大化を図れます。

必要な証拠を収集できる

賃金不払い問題の起きる職場の多くは、労務管理が不徹底です。雇用契約書や給与明細といった基本的な要発行書面すら準備しておらず、労働者の手元に資料が届かないケースも多く見られます。
すでに退職してしまっているケースにおいては、労働時間を証明し得るものを取りに行くことすら出来ません。
以上のような状況からでも、代理弁護士がその職権で開示請求を行うことで、賃金支払いの話し合いに受けた証拠類の収集を開始できます。

必要な損害賠償請求も任せられる

未払い賃金のトラブルには、労働災害やハラスメントなどの損害賠償請求を伴うケースが多々あります。
労働者が独力で対応を行った場合「未払い賃金を払う代わりに慰謝料は支払わない」等の不合理な条件を突き付けられかねません。
弁護士が介入することで、一つ一つの事実について論点を整理しながら、適切に請求を進められます。

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